スナックまりー 子育て卒業
いらっしゃーい。
こんばんは。
お嬢様、元気に大学に通ってる?
へえ、サークルで忙しいんだ。よかったじゃない。
親の役目は、いったん節目を迎えたわね。
わたしね、先週お店を閉めていたでしょ。
じつは、長男次男と一緒に、パリとロンドンに観光に行っていたの。
イギリス留学する長男を送っていったってことよ。
今、欧州のフライトはものすごく値段が高い。それに、戦争のせいでロシア上空を飛べないから、フライト時間も14時間半とかかかるの。
でも、成人してしまった長男次男と過ごす時間はもう少ない、かけがえがない、と思って時間もお金もかけて、一緒に旅をすることにしたのよ。
旅行中、むかしのことをよく思い出したわ。
彼らの小さいときの姿は、数えきれないほどのショート動画として、私の中に大切にしまわれているのよ。
ぬいぐるみをだきしめながら、背中をまるめてソファーで子供向け番組をみていた小さな後ろ姿。
抱き上げるとしっとりと重く、そして熱いあかちゃんのとき。
泣き疲れて眠ってしまった寝顔。
足が速くて運動会ではいつも得意げだった姿。
保育園であったことを夢中で話してくれた帰り道。
ママ―といって全力で抱きついてきた小さな体からの衝撃。
そしてわたしが作ったご飯やお弁当をおいしそうに食べてにこにこしていた毎日。
ふたりとも大学生になって、お友達と飲みに行ったり、遊びにいったり、彼女とデートしたりで毎日忙しく、あんなにも大変だった毎日の食事作りもお弁当作りも、気が付いたら、なくなっていたの。
当時は本当に何気ない繰り返しだった日々が、こんなにかけがえのない時間だったとは、終わってしまうまで気づかなかったわ。
子育てって、本当にみじかいわよね。
渦中にいるときは大変だけど、振り返ると本当に輝きにみちた愛しい時間。
あなたもお嬢さまが大学生になったということは、一緒に住んで、過ごせる時間はもうわずかなのよ。
お嬢さまとの時間を、どうか大切にしてね。
あら、泣かないで。
もう一杯飲みましょう。