マリーの部屋 ー お金のこと81 クレディ・スイス AT1債
みなさまごきげんよう。
お元気でお過ごしかしら。
わたくし、先週1週間お休みをいただいていましたが、その間にクレディ・スイスのニュースがどんどん出てきて、ちょっとそれには目を離せませんでした。
その中で、わたくしが注目したのが、クレディ・スイスのAdditional Tier1債が全損したってニュース。
AT1は、「劣後債」といわれる種類の債券で、最初に世の中に出てきたのは2010年のこと。まだまだ歴史は新しいのよ。
そう、2010年といえばリーマンショックから欧州債務危機へ、というアメリカも欧州も金融システム激動の時代です。
わたくしね、そのときフランスの銀行の東京支店に勤めておりましたの。
なんででしょうね。リーマンでキャリアをスタートし、欧州危機時には欧州の銀行にいるって・・・もしかして、わたくしが嵐を呼んでいるのかしら・・・なんて。
リーマンショックや、欧州危機のとき、大きな金融機関が潰れるのって最悪!!!ということを、FRBやECBが、リーマンの破産から十分学んでいました。
そのため、大きな金融機関が危なくなると政府資金を注入して、救済するということを次々とやったのです。
それ自体はよかったんだと思います。危機は収束していったわけだから。
でも、当時不満が噴出しました。
なぜなら、そういう大手金融機関の株や債券を買った人はあまり損をしなかったから。特に債券は、劣後債券を含め、満期にちゃんと100で満額償還されたのです。
一方、公的資金は全国民からあつめた税金です。
税金負担で金融機関が救済され、それで債券投資家が100%守られる。
それは不公平ではないか、と、当然の反論が蔓延しました。
そのため、新しく作り出されたのがAdditional Tier1債券です。
「公的資金を使うようなことになった場合、「借りていなかった」ような扱いになる債券」、つまり、いざとなったら元本ゼロになって損失を吸収する債券としてAT1債は生まれました。
そのぶん、もちろん、他の債券より利回りは高くなりますし、株式の配当がゼロのときでも、クーポンが支払われたりします。
公的資金が使われず、その金融機関が倒産してしまった場合には、株式よりも弁済順位は高くなります。(普通社債、Tier2社債よりは劣後)
ね。そもそも成り立ちから、
「公的資金注入のときに、損失を吸収するバッファー」
として発行されたAT1債券ですもの、今回全損になって当然、そうはじめから設計された債券なのです。
だから、「債券なのに、株式に劣後するみたいなのはおかしい!」と訴訟する投資家や弁護士もいらっしゃるみたいですが、勝てないでしょう。
さらに難しいのは、それぞれの発行体、それぞれの国のAT1債、CoCo債、広くTLAC債券については、
「条項がそれぞれ違う」
ということです。
AT1債が損失を吸収する条件が、それぞれのAT1債によって違うということです。
当時、フランスの銀行系証券の東京支店に勤務していたわたくし。フランスの銀行もたくさんAT1債を発行していたので、プロ機関投資家から、本当にたくさん、さまざまなお問合せが来たものです。
そのたびに、パリの本社と電話会議をつないで、説明をしているのですが、わたくし自身もそれぞれの違いを追いきれなくて、とても苦労しました。
同時に、そのときすでに発行されて市場で流通していたTier1社債(永久劣後債)が、欧州危機で大きく値を下げたりして、機関投資家に夜中の1時2時にお電話で起こされて、パリとつないで取引する、なんてことも何度かありました。
素人が、「利回りが高いから!」というだけで、簡単に手を出してはいけない種類の債券なのです。
それが今回の全損事件で、明るみにでたってことですね。
プロ機関投資家たちは、発行当時から「ちょっとやばい債券」ということをわかっていたので、何の動揺もないかと思います。
そこらへん、ちゃんと説明して、個人に劣後債や劣後債ファンドを販売していたのかな~って、ちょっと疑問に思ってしまいます。
やはりね、リスクが少なくて、もうかるもの、なんてないんです。
みなさまも、ちょっと「こんなにうまい話、あるのかな?」と思ったら、営業ご担当者にちゃんと質問したり、ご自身でお調べになってね。
あ、間違っても、プロでもなんでもないYouTuberの言葉なんて信じてはいけません。
彼らも、素人です。
休暇中にいただいた、おいしいもの
ハワイといったらこれ!ほかほかのマサラダ。まんまるドーナツよ。
海を見ながらいただくと、格別ね!
それではみなさまごきげんよう。